これまで、あいまいにしていたものを、はっきりさせる。
はっきりしないものは、変えられない。
では、 これまで、まったくはっきりしていなかったものはなにか?
日本の場合、たくさんあります。
官僚たちが自らの権威の後ろ盾とする、天皇の始まりも、その一つですが、
国際政治に、直接関わるものは、国家そのものの姿、輪郭です。
そのなかでも、特に、重要なものは何か?
国家は、領土、領民、法律、通貨、軍事からなります。
この中でも、日本の領土は、戦後、アメリカの占領下にあったときから、
あいまいなままでした。 尖閣諸島は、戦後は、一時、アメリカの統治下でしたが、
沖縄返還とともに、完全に、日本に戻っています。
しかし、日本周辺の領海の実効支配状況を、わざと、あいまいにさせていることが、
戦後のアメリカの日本支配に、好都合でした。
日本を守るといいながら、あいまいなままにして、紛争が起きると、それで、そのつど、
米軍の存在価値が上る。 軍事的に日本を守るとは、けっして対外的には、公言しない。
これが、自民党時代のアメリカでしたが、今回は、違います。
すでに、本欄で指摘しましたが、2001年の「911」以後、
世界は、中国の労働力と市場を、経済成長の継続のために、取り込みました。
その最後の役目が、 2008年のリーマンショック後の中国の大規模な財政出動です。
しかし、これが、むちゃくちゃな内容だったことを、私たちは知っています。
(たとえば、使っていない住宅を1億戸近くを造ってしまいました)
しかも、このときの急激な経済成長で、中国国内の環境が壊れるのみならず、
中国自身が、エネルギー・鉱物資源を世界中に買い捲り、しかも、海軍力を拡充させ、
さらに、 アメリカのほったらかしで、東アジアに、多くの中国漁民が出没しました。
21世紀に入って進行したこうした事態に、自民党は、まったく対処できませんでした。
今回の、前原大臣の判断は、正しいものです。これは、日本国内法の問題です。
2010年の現在、 世界経済にとって、10年前の中国の機能を果たせる国は、
インド・バングラなど、世界中にあります。
もう、中国を特別視する必要はありません。
今回の漁船の船長の衝突が、北京側の思惑であったとは考えられません。
そうであるなら、ここまで強く、「すぐに返せ」と要求しないでしょう。
では、船長個人の感情的な暴挙なのか?
私は、そうした中国人の無定見な判断を知り抜いている人間たちが、日本政府に、
法律どおりに、まともに 対応させた、と思います。
ちょうど、都合のいいことに事故が起きたとき、所管の大臣は、北京政府にまったく
媚を売らない前原氏で、今回、第二次菅内閣では、外務大臣です。
リーマン後、世界経済の救世主ともてはやされた中国は、増長が激しすぎました。
そこで、今、経済がへたりきったアメリカが、初めて東アジアで、 「日米安保」の内容を、
まともに履行してします。
>>で、ここで考えたい。
もし、9月14日の、民主党の代表選挙で、
小沢一郎が勝っていたら、この件はどうなっていたか?
漁船の船長はすぐに返されて、この事故は、船長個人の暴挙して政治的に処理され、
日本の国家としての、 安全保障に関する議論にまでは、話が進まなかったでしょう。
中国が20世紀末から一貫して国家戦略としているのが、太平洋への海軍力の拡大です。
これは、旺盛な国内需要を満たすため、海外から資源を輸入するときのシーレーンを、
インチキ資本主義で得た資金で、周辺を気にせず「わがもの顔」で確立することでした。
これは、「おれさま主義」ですが、そうした中国の姿勢に、小沢氏が、自らの政治信条として、
強く警告するとは、 考えられません。
その姿勢は、今の、この時点でも、そのまま継続され、途絶えることはなかったでしょう。
今の、中国大陸の支配者である、共産党の「おれさま主義」を、嫌っているのは、
日本はもちろんですが、目立たないながら、もっとも強く嫌っているのは、
「大中華経済圏」の主催者です。 華僑であり、その中でも客家の人間たちです。
胡錦濤たちが、大陸運営ができないなら、もっと、まともな人間に任せてもいい、と
考える人たちです。
この人たちにとっては、世界経済に組み込まれた中国を支配する共産党とは、
大陸をつかって、自らの富を増やす、その手段の一つでしかありません。
今の中国の国家指導部は、とんでもない恐怖に、襲われているはずです。
面子(メンツ)を失えば、 国内にある爆弾が炸裂します。
今の中国人は、自分の生活を犠牲にして、国家大義に死ぬ、ことなどは、ないでしょう。
もともと、90年代以降、共産党とは、自己利益を取るための機関でしかないのです。
1980年以後に生まれた世代は、手軽な利益を求めるばかりで、
自分の親や祖父母すら、まともに、面倒見ない人間ばかりなのですから。
で、 今にして思うのは、
今回の民主党の代表選挙で、どんな手を使ってでも、小沢一郎の勝利を阻んだものは、
日本の既得権と、アメリカとの要因だけではなかった、といことです。
「政治とカネ」を、全面に出して、国民に対して、悪役小沢のイメージ作戦を推し進めたのは、
官僚主権を守ろうとする、マスコミ・検察・日米同盟の、戦後体制の共同利益集団ですが、
実は、日本を本格的変えるそのときに、 この「おれさま主義」の中国との決着をつける
必要がある、と、世界が、そして、なによりも華僑たちが、考えたからではないか、
と思えます。
今の中国は、 完全に、国内経済の運営システムが、狂るっています。
中国共産党は、80年代以降、日本の戦後をまねて、工業化を進めましたが、
そこには、資本主義のもっとも悪い面が、2000年来の拝金主義の民族性と合体し、
腐敗の連鎖が根絶できず、 統御できない状態です。
2005年に、発展改革委員会の幹部と話したとき、 自分たちは、
国家の70%しか、管理できない、といっていましたが、
それでは、 今、世界が、困るのです。
アメリカのネオコンが、やっと、自分の誤りを認めた段階です。
今度は、中国の共産党が、謙虚になる番でしょう。
でなければ、大陸の支配者の地位を、譲ることになるでしょう。
小沢一郎は、アメリカ、そして、官僚主権には、戦えますが、
この中国の拡大主義、「おれさま主義」とは、戦えない。
北京でデモをしたのは、明らかに、共産党の古参の幹部でしょう。
若者は、あほらしい、と感じているでしょう。
今、大陸に、失業者2億人。そのうち、大卒の若者2000万人以上。
中国は、自分の国の技術では、急いだ工業化の後始末ができない。
人間的にあまりに、乱暴で、無定見な、指導者が多すぎるのです。
国共内戦当時の、純粋な愛国者だったら、この尖閣諸島の問題よりも、
今は、共産党の指導部内部の腐敗を、嘆くでしょう。
中国共産党員は、表面数字で7000万人。 実数は、2000万人。
このうち、党幹部の上位の20万人の銀行預金を、全部公表したら、
共産主義とは、まったく違う実態が出ることを、 今、中国国民は、皆、知っています。
本当に、「いい現実を作る」智慧は、一体、どこにあるのか?
間違いなく言えるのは、 中国共産党には、その知恵どころか、力もない。
彼らの力は、人間であれ、自然であれ、イノチを壊すのみ。 人間を横暴にするのみ。
アジアの大王になる資格は、ないということです。
国家の優先順位とは。今は、東アジア再編の真っ只中。
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この記事を書いた人
新井信介
1957年長野県中野市生まれ。東京外国語大学(中国語専攻)から住友商事を経て独立。中国の改革開放に立ち会い、独立後は西欧世界にもネットワークを構築。地球史の視野で、国家・宗教・マネーの意味と構造を探り、個人の可能性(想像性・創造性)と、普遍的文化価値を探求している。そのために、『皆神塾』を主宰し、会員制の『瓊音(ヌナト)倶楽部』も立ち上げて、研鑽を深めています。