地理的条件の克服は「心のあり方」。今日はカニを求めて飯山街道を抜けて、上越のシミズ屋に。その繁盛は噂通り。近くに恵心尼記念館。SNS時代は売り手と顧客の心を浮き彫りにする。

私は、長野県北部の信州中野で生まれ、今、警察署のすぐ近くの生家で暮らしています。

我が家はリンゴ問屋でした。千曲川(信濃川)が南から北の日本海に向かって流れ、高社山南麓に広がる扇状地の真ん中にあり、かつては長野善光寺からも、さらに、群馬の赤城山方面からも草津・志賀高原を越えて、旅人が集まった北国街道の町でした。

この地域を治めていたのが、平将門の乱の後に、勢力を広げた高梨氏でした。高梨とは、本来の高麗を隠した名前でした。そもそも、千曲川水系の寺院は、いずれも高句麗様式でした。それが飛鳥時代までには、軽井沢の碓氷峠を越えて、埼玉県日高市の高麗神社にまで伸びたのです。

ユーラシアの騎馬系の人間が列島に入ったのは、2世紀で上陸したのが上越の直江津です。さらに、関川を上がって千曲川まで出たところにある山が、高社山(コウシャザン)でした。その時、関川から通った道が飯山街道です。現在の国道292号です。

今日は、中野の自宅から息子を飯山高校まで送りがてら、木島の龍興寺の湧水を汲んで来ようと思っていたのですが、約一か月前に、中野市最大の農産物直売場「オランチェ」に並んでいた時、上越の方と知り合い、魚が安く買える店として、上越のシミズ屋を紹介してもらっていたので、飯山から飯山街道を抜ければ、上越(妙高市)はすぐなので、その店に寄ってきました。

お目当ては、解禁されたばかりのカニです。地図で見る限り、シミズ屋の場所は、上越でも山よりです。とてもではないですが、立地はよくありません。田舎の山沿いの田んぼの中で、果たして、そこに、おいしい魚が安価で本当に売られているのか?旧新井市の関川の交差点から東に入った田舎道の先に、その店はありました。

倉庫の改造のような店ですが、その広さ、賑わいに驚かされました。鮮魚売り場には、近海の魚の他、カニもありましたが、それは冷凍もので、新鮮なズワイガニはなく、そこで、肉類の総菜(トンカツなど)や野菜類もありました。しかし、お目当てがなかったので、すぐ隣に併設された2号店に向かうと、そこの入り口に、フリ売りの人がいるので覗いてみると、お目当てのカニが、漁港から買ったばかりの箱で売っていました。破格の価格、カニ3杯で2000円。ここより安いところはないよと、その売り子さんは自信をもって売り込んできました。海沿いでもない山側の店。いろいろ考えました。その店では、肉類も、通常の食品もお手頃価格でした。

田んぼの中の一食品店が、どんどん人を集め、そこに、いろんな品物を卸して商売をする人にも、機会を与えていました。単なる薄利多売ではない。口コミだけで名前が広がった原因はほかにあるはずです。その経営者は、どんな心構えだったのでしょう。

ヒトさと離れた場所で店を構えたとき、そこで、どんな人に、どんなかたちで交流してもらうか、きちんとしたポリシーがあったはずです。いろいろ考えさせられました。この店のことは、SNSで多くの遠方人たちにも徐々に広がっているようです。飯山の道の駅から24キロ。

私には、長野駅方面に行くのと反対方向に、一つ、楽しみが増えました。今、飯山市は新幹線駅ができて以来、信越自然郷のメインで、アウトドアスポーツのメッカを目指していますが、その新潟側に、高速道もないところに、人が集まる繁盛店があったのです。

ちなみにその地は、親鸞の妻、恵信尼の故郷の上越市板倉区で、すぐ近くに ゑしんの里記念館 があります。

シミズ屋さんには、恵心尼のこころがひきつがれているのでしょうか?

 

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この記事を書いた人

新井信介

1957年長野県中野市生まれ。東京外国語大学(中国語専攻)から住友商事を経て独立。中国の改革開放に立ち会い、独立後は西欧世界にもネットワークを構築。地球史の視野で、国家・宗教・マネーの意味と構造を探り、個人の可能性(想像性・創造性)と、普遍的文化価値を探求している。そのために、『皆神塾』を主宰し、会員制の『瓊音(ヌナト)倶楽部』も立ち上げて、研鑽を深めています。