経団連に、住友化学の米倉会長。アジアの時代か。

その1) 
 
 鳩山政権になって、人事が大きく変わっています。
 日本郵政に、斉藤次郎氏。
 JALのCEOに、稲盛和夫氏。
 そして、
 次期、経団連会長に、住友化学会長の米倉弘昌氏 が内定。
 稲盛氏は、京都財界で、一貫して民主党支持でした。
 松下幸之助の後継者とも言われる企業人です。
 さて、米倉氏。戦後の財界の不文律であった、
 旧財閥系からは財界トップを出さない、が、これで破られます。
旧財閥系といえば、
   三井 両替商(江戸中期)
   三菱 海運業(明治維新)
   住友 銅精錬(戦国末期)
  ですが、 この中で、鉱工業で財をなしたのは、住友です。
 私は、1981~88年まで、住友商事に勤めていましたが、
 この会社は、先の大戦から帰還した住友本社の関係者の人間に、
 戦後、仕事を与えるために作られた会社(日本建設産業)が出発でした。
 戦後は住友グループの中で補給船といわれ、そのとき戦艦だったのは、
 住友御三家と呼ばれる、 銀行、 金属、 化学 でした。
 21世紀に入り、補給船だった住商は今、グローバル化の中で業績を、どんどん
 拡大しています。特に、電池の原料になるリチウムの鉱山開発には積極的です。
 また、早くから、ヴェトナム、インド市場に拠点を作っています。
 中国関連では、北京政府(当時の周恩来)が1970年に、取引企業にもとめた、
 四原則に、財閥系の中で、もっとも早く賛同を表明した商社でした。
 (周四原則 ・・・中華人民共和国は下記に該当する企業との取引を拒否する。
  中華民国および韓国を援助する企業
  中華民国および韓国に投資をおこなっている企業
  アメリカのベトナム戦争政策を援助する目的で兵器・弾薬などの軍事物資を供給している企業
  アメリカ企業の子会社および合弁会社)
 今回の住友化学のトップが、なぜ、経団連のトップになったのか?
 米倉氏は最近ではダボス会議の常連で、国際通といわれますが、
 二つの大きな功績があります。
 まず、1970年代後半、シンガポールの石油化学プラントの建設に関わりました。
 この事業は、シンガポールを、それまでの、単なる中継貿易の基地から、
 工業的な付加価値を生み出す 知的集約産業に切り替わるきっかけになりました。
 もう一つは、911以後、アメリカがテロ支援の恐れありと難癖をつけ、米国内にある
 アラブ各国の資金をロックする中、サウジアラビアの国営石油会社アラムコと組んで、
 ペルシャ湾の反対側の紅海に、石油化学コンビナートを建設したことです。
 ここには、もちろん、シンガポールでの経験が生きています。
 
 それ以上に、2003年からの極端な原油価格の上昇の中で、冷静に、将来の、
 原油の持つエネルギーとしての需要低下を予見し、原油を材料にした工業製品の
 加工基地を、産油国はもつべきとして、サウジと緊密な関係を築いたその慧眼が
 見事でした。
 20世紀は石油の時代といわれ、その支配権の独占に入ったのがアメリカです。
 産油国と、各国のガソリン製油所や工業製品などの石化プラントの間に入って、
 原油価格を支配することで、富を得ていたのが、戦後のオイルメジャーでした。
 1971年以後、原油は米ドルでしか買えなくなり、その価格は、中東での
 緊張状態(戦争)に、常に左右されつづけました。
 この体制にに挑戦したのが、イラクのフセインでした。
 アメリカは、2001年の911以後は、イラク戦争を仕掛け、さらに、中国の莫大な
 原油消費が、枯渇を招くと、メディアで煽って、原油価格を147ドルまで吊り上げ、
 このとき、同時にサブプライムローンのインチキ債権を全世界にばら撒いたのが、
 アメリカ金融筋(=ブッシュファミリー)でした。
 そうした中、本当に着実に、実需にそって、華僑グループ や、アラブグループ とに、
 信頼関係を築いていたのが、米倉氏です。
 今回の人事は、日本国内よりも、むしろ、海外からの要請ではないでしょうか。
 
 日本にとって、東アジア共同体に、向けて、舵が とられています。
その2)
 しかし、まだまだ、問題がある。 特に大きなものは、二つ。
 ① まず、 歴史認識。
 
 もとより、北京政府は、戦後史に関して、何も、表明しない。 
 戦前まででも、いまだに、南京事件では、食い違ったままです。
 
 一方、私たち日本国民は、  戦前の「大東亜共栄圏」と、
 今回の「東アジア共同体」の違いを明確にする必要があります。
 特に、天皇、そして、アマテラスの位置づけです。 
 ② 次に、東アジアの有事に際し、
 日本国内の指揮権は、一体、誰に、あるか、という点。
 国会で、何回も、「有事」、「有事」といわれても、
 実際 , そうなったときには、 そのとき、誰が、指揮するのか?
 自衛隊に関して言えば、最高指揮官は、首相ですが、
 果たして、日本の首相が有事の際に、全国に、戒厳令を敷くことができるのか?
 これは、 在日米軍の司令官ではないのか?
 この点が、これまで、あいまいなままでした。
 日米安保と、憲法九条がある以上、  日本は、先制攻撃できませんが、
 一方、アメリカは、日本の防衛義務を負っているわけですから、
 アメリカの 日本での最高司令官しか、日本国に戒厳令を発動できません。
 
 こうした状態を、なんと言うのか?
 それは、<占領下> です。
 ここの事実を、踏まえない限り、日本の国策は、考えられない。
 今、 「東アジア共同体 に、アメリカを加えよ。」
 これは、シンガポールのリークワンユーの言葉です。
 鄧小平の改革をもっとも支援した華僑世界の大ボスが、今、中国に対し、牽制を
 促しているのです。 中国は、外貨準備が 2兆3千億ドルと世界一になって、
 金欠のアメリカの支配層の取り込みを始めています。
 また、そこには、日本軍部の復活に対する警告もあるのでしょう。
 
 (注:これに関連して、アメリカの台湾への武器6000億円の売却も、この次元でみると
  分かりやすい。北京政府は、あわてて、面子上、抗議するしかなく、これで東アジアには、
  一時的に緊張が生まれ、その結果、民主党に米軍基地の存在価値を再認識させている。)
 テレビの電波芸者たちは、有事の指揮権のことは、誰も指摘しない。
 自分の講演料を吊り上げるための、ぬるま湯の「お話ごっこ」が、テレビの討論番組。 
 でも、現実は、もっと、深い次元で、いつも、進んでいる。
 特に、実業界は、ショーでは、動かない。
 しかし、選挙民は、いつも、ショーに踊らされる。
 賢くなりましょう。

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この記事を書いた人

新井信介

1957年長野県中野市生まれ。東京外国語大学(中国語専攻)から住友商事を経て独立。中国の改革開放に立ち会い、独立後は西欧世界にもネットワークを構築。地球史の視野で、国家・宗教・マネーの意味と構造を探り、個人の可能性(想像性・創造性)と、普遍的文化価値を探求している。そのために、『皆神塾』を主宰し、会員制の『瓊音(ヌナト)倶楽部』も立ち上げて、研鑽を深めています。