靖国神社をどう見るか?これは日本人の精神の成熟度を試す。

 昨日、靖国神社のまえでは、少し事件が置きました。
二つ、取り上げます。
 一つは、靖国神社前の警官が、戦闘服をきた右翼と思しき人に、切りつけられたこと。
 もう一つは、神社の付近で、30名ほどの無届のデモがあり、
     「靖国神社を解体せよ」「靖国は人殺しの神社だ」と訴えていたこと。
 菅内閣の全閣僚は誰も参拝せず、自民党の議員は参拝です。
 安倍元首相は、首相在任中は、この日に参拝しないのに、今回は参拝です。
靖国神社は、明治維新以来の全ての戦争と関わります。
出発は、維新戦争でイノチを落とした長州藩士を弔うためのものでした。
名誉を与えるために、明治政府は、彼らの魂を形式上、「神上がり」させました。
このときから、靖国神社は、日本本来の「神社」ではなくなりました。
神社のご祭神は、日本では、それまで2系統でした。
 ①祖先崇拝に基礎に、各部族の過去の大英雄を「神」として祀ったもの。これが「産土社」。
  実在の人物を神として崇め、その威徳をこの世に顕現させ、自らの守護神にするもの。
 ②持統が7世紀末に皇祖神アマテラスを作り出し、ここに不比等が、スサノオ、ツキヨミを
  加え、それ以前までに日本列島にやってきた多くの部族の統合神にした。
 この両者の祭神の由緒の確認では、旧約聖書の記述と日本列島での事跡伝承を神代編に組み
 込んだ、古事記・日本書紀が参考にされ、さらに、その信仰の進め方(礼法、メソッド)には、
 モーゼ時代以後の多くのヘブライ人の信仰形式や精神を純化させるノウハウが、込められた。
 中でも、「三位一体」のキリスト像を作り上げた手法も皇祖神アマテラスに生かされた。
 時の権力者(将軍)に、部族や地域の窮状を直訴しために命を絶った人間も、その関係者から
 「神」としてあがめられ、神社の祭神になったが、これは、①の習慣に根ざしていた。
これに対し、靖国神社はどうか?
 出発は、先に触れたとおり。
 しかし、明治政府のやり方に反発するものは、すべて、「鬼」「国賊」の扱いとなりました。
 代表例が、西郷隆盛です。
 明治維新政府、それを引き継ぐ大正・昭和初期の政権担当者(官僚も含む)にとって、
 この神社は、 なんら、自らの施政の間違いを正す機能を持ちえませんでした。
 それよりも、積極的に軍事的拡大策を進めるときに、その犠牲となる国民を、
 なんでも、「神」として、祭り上げることで、自らの戦略・戦術的な過ちを検証することなく、
 日本国民を、手ごまとして、使い捨てる発想を、強めて行きました。
 
 それが、「玉砕」になりました。
 戦略目標もなく、天皇の威光の拡大のみをつづける、推進装置となっていきました。
《靖国の英霊》といいますが、 沖縄のひめゆり部隊や、台湾の原住民の人たちは、
 ここでの英霊と呼ばれることを、断固、拒否しています。
 よって、靖国問題は、日本の、戦前・戦中の国際関係も踏まえ、三つの視点が必要です。
1) 「赤紙」で召集され国家につくしたが、下手糞な運営で殺された個人とその遺族の恨み。
2) 戦争遂行の推進拡大装置となっていった、その機能と意義(当時と現代)の明確化。 
3) 戦後、祭神に「戦犯」が加わったことからくる、満州事変・満州国の国際政治上での意義。
いわゆる、右翼の人は、 1)の段階の精神性で留まっています。
左翼の人は、 2)の段階で、現代での意義を、強調します。
そして、昭和天皇が、戦後、参拝を取りやめる時に気にしたのが、3)の段階でした。
満州国の是非をめぐって、1932年、リットン調査団が派遣され、日本にその調査結果を
報告する直前、犬養首相が東京駅で暗殺されました。
そして、日本は、国際連盟を脱退し、世界を相手に戦争に入りました。
しかし、こうした中で、韓国の併合をどう位置づけるのか、考えましょう。
重要なのは、持統のアマテラス以前、朝鮮半島と日本列島は、どういう関係だったか? です。
この点に対し、江戸時代までの日本人の見方と、明治政府は完全に変わっています。
明治政府にあって、朝鮮を、清国の属国から独立国になるようにすすめたのが西郷ですが、
朝鮮は事大主義で、清国・日本・ロシアのどこにつくことが有利かばかりを考え、結局、
日本が、単に味方に引き入れることでなく、完全に明治政府の支配下国民として抱え込みます。
このときの日本政府と国民には、朝鮮民族の誇りを確認しながら、近代化の道を育成・支援する
心のゆとり・奥深さがありませんでした。 
日韓併合に反対した伊藤博文は暗殺され、「檀君神話を生かせ」といった今泉澄の忠告は、
朝鮮総督府に無視されました。
かえすがえすも、残念です。
世界史の中で、日本人とは、一体、なになのか?  最後は、ここに戻ってきます。 
これをきちんと考えない(考えようとしない)人間は、上記1)と2)で留まることになります。

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この記事を書いた人

新井信介

1957年長野県中野市生まれ。東京外国語大学(中国語専攻)から住友商事を経て独立。中国の改革開放に立ち会い、独立後は西欧世界にもネットワークを構築。地球史の視野で、国家・宗教・マネーの意味と構造を探り、個人の可能性(想像性・創造性)と、普遍的文化価値を探求している。そのために、『皆神塾』を主宰し、会員制の『瓊音(ヌナト)倶楽部』も立ち上げて、研鑽を深めています。